2013年4月1日月曜日

Lover Boy





玄関の扉が閉まると同時に床に押し倒された。
これまでに演出とばかりに連れ込んだ女たちを玄関からベッドまでの間に一枚一枚剥いている光景ならば割と頻繁に見ていたが、実際に自分がされるとは思ってもいなかったから、一瞬戸惑った。
それもこんなに切羽詰まった顔で。

熱い舌が首筋をなぞる。
荒い吐息がくすぐったい。
下肢を熱い指がなぞって、すぐに肌が熱を帯びる。
落ち着けよ、そう言った言葉は耳に届いていないようだ。
どうしたもんかと考えながら、頬を擽る紫の髪を撫でる。

此処数日間の意地悪が大分効いたらしい。
昼夜を問わずに邑伺の欲情を煽るだけ煽ってオアズケを食らわしていたら、これだ。
割と普段は余裕ぶっている邑伺も、追い詰められることがあるのだと思うと、
何だか勝ったような気持ちになって、ふ、と笑うと赤い瞳と目があった。
こちらを見つめたままでベルトを外そうと腰をまさぐる邑伺の熱い指先を抑えて、背後の玄関ドアを顎で示す。

「…鍵ぐらい閉めてからにしろよ。」
「ええやん、どうせ誰も来ぃひん。」
「お前の上司様々が堂々不法侵入してくっかもしんないだろ。途中でやめれんの?」え

いいから閉めろと視線で促せば、渋々身を起こして扉に手を伸ばした邑伺の隙をついて、身を反転。リビングの方へと逃げる。

「あっ、コラ逃げんなや!」

折角だからギリギリまでオアズケを食らわしてやろうと思ったが、家の中ではそう逃げ場はない。
追う手からひらひらと逃げ回っていたが、結局捕まって、リビングの俺のベッドに縺れて倒れ込んだ。

「邑、ちょ、」

待てよ、と言おうと口を開けば、すぐに長い舌が入り込んで、口内を蹂躙された。
上顎を舐めあげられて背が跳ねる。
首の後ろがゾクゾクと粟立つ感覚がして、体が震えた。
ここまで来てはさすがにこれ以上のオアズケはできないか、とそれは諦めることにするが、
今回好きなようにやらせてやるつもりはない。
イニシアチブはあくまで俺のものだ。

力づくで抑え込んでくる邑伺の体を、力づくで引きはがすと逆に押し倒し、邑伺の上にのしかかる。

「…っは、わーったわーった、相手してやるから、ちょっと落ち着けよ。ったくしょうがねえな…」
「……誰のせいやと……ってかしょうがない言うとる割には、ちょっとキスしたくらいで良い反応してるやん?」

下腹に俺の熱を感じたらしい邑伺が鼻で笑う。
そりゃあ、仕方がない。
邑伺にオアズケをしている間、同じだけオアズケを喰らっているのだから。
一人で抜いてしまっても別に良かったのだが、それじゃあこのゲームが面白くない。
正直に、そうだな、と肩を竦めて返す。

わざとゆっくり時間をかけて邑伺の服を脱がしていると、じれったい、と邑伺は片手で自分のシャツのボタンを、もう片手で俺の服を脱がせ始めた。
変なとこばかり器用だな、と思って可笑しくなる。
脱ぐのは邑伺に任せる事にして、足で邑伺の熱を煽りながら、既に露わになった邑伺の肌に舌を這わせる。
いつもは俺よりもずっと低めな気がする邑伺の体温は、すでに発熱しているんじゃないかと思うほどに熱く、その所為かいつもより強く邑伺の匂いが感ぜられて、酷く興奮する。

理性をかなぐり捨てて、今すぐ滅茶苦茶にしてやりたい衝動にかられるが、それではつまらない。
ここまで来たらそう簡単に終わらせてはやらない。

胸の突起を舌でなぞると、邑伺が小さく声を漏らした。
普段は吐息ばかりで、滅多に声をあげないくせに、よっぽど溜まっているらしい。
そのまましばらく舌先で転がしてやって、それからヘソをなぞり、下腹へと舌を這わす。
まだ衣服を身に着けたままだった下肢から強引に服をはぎ取って。

すでに準備万端と昂ぶりきっている邑伺Jrは華麗にスルーして、内腿へと舌を這わせば、
「…七尾、…」
切なげに名を呼ぶ声がして髪を掴まれた。

そこじゃない、と言いたいのだろうが望みは叶えてやらない。
太ももを執拗に、それから足の付け根を。
びくびくと跳ねる腰が楽しい。

意地悪に夢中になっていると、掴まれたままだった髪をグイと引かれて上を向かされた。
眉間に皺を寄せて、けれども怒っているというよりは困ったようにこちらを見ている。

「……咥えて欲しい?」

唇を近づけて、吐息だけをふきかけてやる。
邑伺の返事の代わりに、手の内の熱塊がピクリと震えたが、もう一度邑伺を見上げて返事を待った。

「どうして欲しいんだよ?」

咥えようと口を開ける振りして、また辞めて。腿を撫であげる手が触れると見せかけてまた戻って。
邑伺の目に期待と、じれったさからくる苛立ちの色が交互に浮かぶのを見て楽しむ。

「…早く咥えて、舐めてや。」

一向に叶えられない期待に、困ったように目蓋を伏せた邑伺が小さい息と共に零した言葉。
それが聞こえない振りしてそのまま焦らして、口にしてもかなわぬ願いに困惑の色を浮かべて邑伺が目蓋を開くのと同時に、邑伺の欲望を口に咥えこむ。

「……っく、ぁ…」

小さく背を反らし動く邑伺の脚を押さえつけて、付け根から先端へとゆっくりなめあげる。
先端はもう既に蜜を零していたが、気にせず唾液と混ぜあって、挑発するように態と音を立てて吸い付いてやった。
熱く湿りを増す邑伺の吐息と俺が立てている水音だけが、二人きりの静かな部屋に響く。

──早く、早く。

触れているだけだというのに、我慢の限界に近づく。
邑伺のモノを咥えたままで、 自分の指を濡らして、邑伺の後孔に指を這わせる。
つぷり、と埋め込むと、俺の髪を掴む邑伺の指にの力が強まった。

「…っ、七尾、」

邑伺のイイところを指先で引っ掻いてやるのに合わせて強まる髪を引かれる痛みに、
ハゲたらお前の髪も毟ってやるからな、と内心で毒づくが、名を呼ぶ甘い声に痛覚すら溶けて行く気がした。

邑伺の腰が震えて、放ちそうになる前に口を離す。

 ──早く。

逸る心を抑えて、邑伺の上に覆いかぶさった。
唇に齧りついてこようとするのを抑え込んでその瞳を見つめる。

─いとしい。

濡れた赤い瞳も、快感を耐えて赤く腫れた唇も、 いとしくていとしくて、たまらない。
それがこの刹那に限られた、欲望が引き起こした感情であることは分かっている。
事が済んで頭が冷えればすぐに消える。
本能が行為をさせるために疑似的に引き起こした感覚。
それなのに、偽物の感情のくせに、溢れんばかりのその大きさが煩わしい。

俺の欲望をあてがうと、待ち受ける快楽に期待するように逸らされた邑伺の喉に噛みついてやる。
ひくつく窄みに押し当てて、けれどもまだいれることはせずに、ゆるく擦って、小突いて、それを繰り返して。
誘うように急かすように邑伺の脚が腰に絡みついた。

熱に浮かされて、まだ挿れてもいないのに意識が揺らぐ感覚がする。
我慢できなくなる。

「…邑伺」

名を呼んで一気に貫くと、邑伺の腰がガクガクと震えた。
空イキしたらしい邑伺の中に、強く締め付けられる。
襲う快感のあまりの強さにこのまま白い喉を食いちぎってしまいたくなる。

「っは……、ずるくね、」
「…っは、ぁ、何、が、」

先にイって。
返事をする代わりに、深くキスをした。
絡まる舌を強く吸われて、息が出来なくなる。
何かもう、一旦イっていいかな、って思って、腰を激しく動かした。

背に強く爪を立てられても、もう快感が勝って気づかない。
刻むリズムにベッドが軋む。
呼吸が揃って一気に上り詰める。

「っふ…ぁ、邑伺、邑伺っ…」
「…っ、七尾…」

邑伺の甘い声が鼓膜を打って、脳を溶かしていくようだった。
どうしたらいいのか分からなくなって、何度も名を呼んで、縋るように掻き抱く。
キツク抱き返されて、二人同時に果てた。


ーーー

荒い息が整う頃、それでも二人、体の熱は覚めやらない。
未だ消えてくれないいとしさを持て余して、首筋にかぷりと噛みついた。

「……噛むなや」
「やだ」
「…なあ、後、何回?」
「……明日仕事なんやけど。」
「あっそう。じゃ、店開けといてってメールしとけよ。今の内だぞ。」

そう言うと、邑伺が携帯に手を伸ばす前に、また腰を動かし始める。

「っは……七、まてや、もう…」

嫌だね、と意地わるく笑って唇を重ねた。
諦めたのか、待て、と言う割にはすんなりと受け入れて誘う舌。
冷め切らぬ熱が、開いたままのカーテンの向こう、窓を白く曇らせた。

夜はまだ長い。


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