「先生、奇遇ですね。」
馴染のBAR。
いつもの決まった席へ通される途中、カウンター席に見知った顔を見つけ、声を掛けた。
チョコレート色の肌の、美しい女性。
彼女は時折組の連中が世話になっている女医だ。
つい先日も、ヤシロ自身が診察を受けたばかりだった。
「…あら。今晩は。珍しいのね。今日はお一人?」
「ええ、偶にはね。先生こそ、お一人で?」
「ええ、偶にはね。」
「御隣、いいですかね?」
「どうぞ。」
悪戯っぽく微笑む彼女に魅かれ同席の許可を願えば、 それはすぐ快諾された。
席に着くと、アキダクトを注文する。
「…彼は?いいの?」
彼女の視線が、ヤシロと共に入って来た男をちらりと伺う。
男は二人が共に席に着くのを見ると、少し離れたボックス席に一人で着いた。
「アレは私の子守りでね。こうして素敵な女性と二人きりで逢瀬をすることもできない。不便なモンですよ。」
「…お噂は聞いているけれど。女もいけるのね?」
「まあ噂通りですがね。でも先生程お美しい方なら、男は誰だって飛びつくでしょう。」
「そう?ふふ…悪くないわ。顔も好みだし。」
形の良い唇が美しい弧を描く。
細く長い指先が、その口元にグラスを運ぶ様が何故か扇情的に写った。
「光栄です。…この間はつれませんでしたが。」
「仕事中だったでしょう?だめよ。」
「それは失礼しました。…では、今夜は?」
「そうね、酔うまでに貴方が楽しませてくれたら、考えるわ。」
バーテンが酒をカウンターに差し出すと、彼女が自分のグラスを掲げた。
グラスとグラスを軽くキスさせる。
小気味よい音を響かせて硝子が鳴った。
「では、頑張りましょう。」
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