腹に寄りかかる温もりを、いとおしむように体を丸めて包み込む。
真夏の京に迷い込んだ寒気によって、暫く続いている冷夏は、
寄り添い合うのには丁度良い気温を運んできた。
寄り添い合うのには丁度良い気温を運んできた。
陽光はやはり夏の気を帯びて、昼間は汗ばみはするものの、夜は肌寒い程だ。
今夜も随分と涼しい夜で、七尾は、庭を眺めながら酒を飲んでいた俋司に肉の燻製でつられ、
いつも彼が寄りかかっている柱の代わりに温かい背凭れ役をしているのだった。
いつも彼が寄りかかっている柱の代わりに温かい背凭れ役をしているのだった。
腹に包み込んでいる俋司は月が桜の木を挟んで左から右へ移動するくらいの間、
静かな寝息を立てている。その首元に鼻を寄せる。
静かな寝息を立てている。その首元に鼻を寄せる。
自分のものと混ざり合い、馴染んでしまった彼の匂いはとても心地よい。
あくまでこいつを喰らってやるまでの間の休戦関係である(つもり)なのだが、こいつを食らえばこの匂いも薄れて消えてしまうのかと思うと、少し惜しいような気もしてくる。
人がもののけと呼ぶ類のものたちの序列はそれが生きた年数が及ぶ所が大きい。
形を変えた彼の仔細は見て取れないが少なくとも自分よりはゆうしの方が、数十年は年上であろう。そんな相手に真正面から立ち向かうのは無謀であり、出会い頭は頭に血が上っていたせいでまんまと捕らえられたわけだ。
同じ過ちは繰り返さないと、こうして虎視眈々と食らってやる機会を狙っているのだが、長く伴をすれば、獣とて情は移る。居心地が悪くないのならば尚更に。
けれども自分にはもっと強大な力を得らねばならぬのだ。
その為にはこいつも喰わねばならぬのだ。
最期にあの蛇を飲み込む為、この口は大きく大きく在る。
最期にあの蛇を吐き出さぬよう、より強い力を得なければならぬ。
理由は知らねどそれが定め。
それを抜きにしても、こいつはきっと大層美味い。きっとまた、堪え切れずに食らってしまうのだ。
べロリと頬を舐めると、うぇ、と声をあげて目を覚ましたゆうしが眉を顰めて赤い瞳を向けてきた。
「…人の顔にべっとり涎付けるなや」
「美味そうな寝顔を晒しているのが悪い。油断してっと食ってやるぞ」
「はいはい、これでも食っときや。」
代わりだと口に突っ込まれた干し肉を噛む。
口に広がる甘みと苦味。
こいつを喰らう日が、もう少しだけ遠いといい。
ほんの少し悲しくなった気がしたのは、きっと月が雲に隠れたからだろう。
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