2013年6月10日月曜日
Sweet dream
ちゅ、ちゅと甘い音を立てて、甘い甘い、桃の味のキス。
邑伺が横から奪った桃を追って唇に齧りついてきた七尾は、そのまま邑伺をベッドに押し倒した。
邑伺の口の中から桃を半分奪って行くと、満足気に笑う。
甘い桃の味がしっかり口内に残るのは、ここが七尾の夢の中で、今邑伺は七尾の夢の住人として入り込んでいる為に、味覚も七尾の記憶に左右されているのだろう。
どんだけ好きなんや。
くすりと含み笑いを漏らすと、七尾は再び唇を重ねて来た。
「もう、桃ないで。」
「でもまだ、味するだろ?」
逃げやしないのに、首に腕を絡ませてくる。身をよじろうとすれば、足に足を絡められ、いよいよなすがままになった。
生々しい体温は、普段からひっついて覚えた記憶の構築か、いいやきっと今目を覚ませばきっと似たようなことになっている違いない。
首を締めてやろうかとも思ったのに、何を考えているのかと頭の中に入り込んでみればこの状態で、全く、毒気を抜かれてしまった。
何に怒りを覚えたのかも次第に薄れて、夢の中の心地よさに身を任せる。
尚も抱きつく腕に力を込める七尾に苦笑を浮かべれば、何笑ってんだよーと鼻を摺り寄せてくる。
なんだ、こいつは"あの頃"と何も変わっていやしない。
「分かったから、ほら離しや」
「やだ」
「甘えたか」
「そうだな。好きだろ?あったかいの」
「どうやろな、っつか暑いわ」
いつもと変わらぬ押し問答。
「…寂しかった?」
「…は?」
ふと、声のトーンを変えて七尾が訊いた。
その問の真意を図り兼ね、答えあぐねてその瞳を捉えようとするも、七尾は瞼を閉じて青い瞳を隠してしまった。
「今度は、大丈夫だよ。置いてかねえから。多分な。」
「…なんやそれ、」
「さぁ、なんだろな」
答える気はないのだろう七尾が、首筋に顔を埋めてくる。次第に周囲の風景がぼやけだした。
夢の主である七尾が、さらに深い眠りに落ちるせいだろう。
先ほど抱いていた憎しみもその後感じたいとしさも、すべて混ざって溶け出して、邑伺の意識も、暖かな暗闇に落ちていった。
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