またえろ
明かりの消えた花屋。
CLOSEの札がガラスドアに揺れている。
「…ったくお前は、ほんまに躾がなっとらんわ。待てもできへんのか。」
「出来ると思ってたのかよ?」
「思ってへんわ。ドヤ顔すんなや」
珍しく七尾が神妙な顔をして、大事な話があるのだと二階へと誘うから、
店の片づけも適当に、少し不安な気持で二階の事務所へと入れば
「まじもう限界」といきなりソファに押し倒された。
狭い事務所のソファより、15分もかからない距離にある自宅へさっさと帰って
ゆっくりヤればええやんと引き剥がそうとしたが、
「無理。股間が死んじゃう」
という良くわからない理由であっという間に脱がされた。
別にええけども。
撫ぜられ、歯を立てられ、慣れた手に刺激を与えられれば
パブロフの犬のようにすぐに熱を帯びる自分の肌にほんの少しの悔しさを感じたが、それもすぐに快感に打ち消されてしまう。
まあ偶には家以外も新鮮でええか…。
そう思って最後の理性も投げ捨てて行為に没頭しようとした時、
ガラリと窓が開いて、ビクりと体が強張った。
直ぐに侵入者の正体は知れたモノの、驚かされた事に怒りが湧く。
「…何やねん、普通に入ってこれんのかお前は。っつーか入ってくんなや、蝙蝠。」
「これは失礼。お楽しみ中でしたカ。」
「見りゃ分かるやろ……っつか七、お前もちょっと待ちや。」
蝙蝠の侵入に少しの反応もせず、邑伺のモノを咥えようと大口を開けた七尾の額を指で弾くと、不服そうな声があがった。
「えー。何でだよ?びぃだし別にいいじゃん。」
「そらそうやけど…少しは何か…あるやろ。」
「何が?」
「…何か。」
「頼まれてたモノ、ココに置いておきますヨ。」
七尾にこういったことへの同意を求めても無駄だった。
諦めて代わりにもう一人、こちらも目の前の行為を意に介さずに
事を進める蝙蝠の方に怒りの矛先を向けておく。
「お前もや蝙蝠。やたら最中に入って来るんは狙っとんか。」
「別に見たいワケじゃないですケド。あなた達が四六時中シてるからでしょう。」
「四六時中はしてへんわ……もうええ、後で確認しとくからはよ帰りや」
そういい終わる前に、既に事を再開していた七尾が手と口を止めて、蝙蝠を引き止めた。
「あ、びぃ。折角良い所に来たんだからさ、録画して。」
「嫌ですよ」
「金なら出す」
「そういうことなら。」
意味の分からない七尾の申し出が、唖然としている邑伺の了承も得ぬままに快諾された。
「、ちょっっっっっと、待て、や。いやいや、そういうことなら、やないし。大体七はどんだけ撮りたいねん!」
「だって俺も一緒に写ってんのってあんまりねえんだよ。いつも案外ちゃんと映ってなくてさー。難しいんだよね、やっぱ。傍から撮ってもらった方が全体は巧く撮れるっつーか?」
「そういう事ちゃうやろ!」
「そういう事だろ」
「依頼者は七さんですノデ、撮りますね。」
邑伺の抗議も空しく七尾は再び行為を再開させ、
蝙蝠は何処から出したのだか、ハンディカムを回し始めた。
予定されていたかのような二人のタッグに反論する気も失われ、
邑伺はバタリとソファに倒れた。
「もういややこいつら…」
邑伺の疲れきった嘆きの声は、楽しげな二人には届かない。
0 件のコメント:
コメントを投稿